今の生食パンブームはどう思いますか?

食パンが売れるのは良いですよね。ファール ニエンテは生食パンを出せてないんですけど、食パンのバリエーションや、トーストしないで食べるパンが流行っていますよね。食パンブームが来ているのであれば、そこで食パンのバリエーションを出すのは良いですね。いま甘くて柔らかいものが生食パンでは流行っているので、それだけではないものを提案出来ると思っています。ファール ニエンテのパンは粉から美味しいんで、焼いても美味しいし、生で食べても美味しいパンはありかな。小麦から作っているので地産地消のパンとも言えますね。

美味しいパン屋が街をつくる。

もともとこの場所が住宅街ではあったので、こういう店が欲しいってことは要望としてはあったようです。ここが建つときには町内会の会長さんたちにも説明をしたところ、福祉施設だから協力するぐらいなイメージで利用しようと思っていたらしいんです。そこまで繁盛しないだろうと地域の人たちも当時は思っていたみたいで、町内会の人たちも集まる場所もないから、ご飯を食べながら集まる場所として使いたいと思っていたんですよね。でもオープンしたら毎日満席になるぐらいお客さんが来たので、ただただご飯を食べるだけに利用してくださる感じになってますね。けっこう町内の人たちは来てくれています。

本当に地域の人たちが来てくれるエピソードとしては、近くの小学校の子たちが見学に来てくれたとき、「来たことある人」と聞いたら、8割の子どもが手を挙げましたからね。オープン当初の来店予測もここまでを予想していなかった分、嬉しい反面辛かった部分はありますね(笑)。

ファールニエンテはオープンして何年目になりましたか?

2014年の11月に出来たので、今年で丸5年になります。GWも終わってお盆休みも明けた今、ハロウィンと来年のGWに向けて動き始めてます。これから来年のGWまで、どんどん売上も伸びていく時期なんで一番忙しい時期です。この店は秋口から来春・GWまでが繁忙期なんです。GWが終わりだんだん暑くなってくると、だんだんと売上も落ち着いてきます。

オープンしてから、この5年はどうでしたか?

ここが福祉施設ということもあって、スタート時に障がいのあるスタッフが少なかったり、最初にデザインしていたことがうまくハマらなかったりで、2年目ぐらいまではかなり辛かったですね。正直いま5年目を迎えるんですけど、4年目までずっと赤字で、やっと今年黒字の月が増え、累計では黒字の経営状態になってきました。この間にパン生地の種類も少し見直したりしてましたね。

望月さんが以前来てくれたときは、こんなにテーブルなかったんです。ここ数年でテーブルをすごく増やしました。他にも座れるところを増やしたり、細かな微調整を繰り返してきて、今年ようやく経営はうまく軌道に乗ってきていると思います。地域とのつながりの話で言えば、お店自体はオープンから食堂は”満席にならない日”を数えるほうが楽で、本当に満席にならない日は、両手で数えられるくらいすくないかも。

お店に来る方たちは障害のある人が働いているのを知っていますか?

お店に初めて来る人の9割は知らないで来ていると思います。あとの1割は障害のある人たちの親御さんや、福祉関係の人たちがいらっしゃいます。ネットなどで調べて来てくれた人たちは知らないと思います。例えば食べログがあるじゃないですか。ファールニエンテはピザ屋で登録されちゃってるんです。横浜市ではピザ屋で約100店舗ぐらい登録されているんですけど、食べログで横浜・ピザで検索すると、 TOP20の中でうちは12位か13位ぐらいなんですよ。☆は3.47ぐらいですね。

うちのシェフは他のピザ屋を渡り歩いているんですが、他の店だと修行して、おいしいピザのこだわりを持った人たちが作っている。横浜はたくさんお店がある中で、ファール ニエンテみたいな障がいのある人たちが働く施設として、ランキングに入っているのは本当に驚きなんだそうです。うちみたいなお店が今後増えてくると、またいろんな多様性が出てくるんだと思いますね。

もともと障害のある方たちと関係したお仕事なんですか?

パン屋さんと食堂というように普通の飲食店と見られがちですが、そもそも、ここが福祉施設なんですよね。ここで働いている人がほとんど障がいのあるスタッフなんです。開く会の中では障がいのある人たちが働く施設が三つあります。望月さんと最初に会ったのが共働舎で、そこが最初に障がいのある人たちを支援する施設として生まれました。そこはお花作り・パン作り・陶器作り、そしてそれらを売るということをしている施設。もう一つはたらき本舗という施設があり、そこはお菓子作りがメインで、ケーキやクッキー作りを行う施設です。障がいのあるスタッフは共働舎が約70人、はたらき本舗が約20名。ファール ニエンテが約40人働いています。

これらの仕事内容の他、障がいのある人たちが5~6人集まり一緒に暮らすグループホームを作っています。グループホームは10軒あり、そのグループホームに暮らす人たちは約60人です。

この法人自体は、昔から知的障がいのある方たちの支援を得意としていました。もともと保父をやっていた理事長が、障がいのある子供たちを支援することから始まり、家に課題があったり、親のいない子供を預かるグループホームを始めました。そういう活動をしていく中で、きちんとした事業にする。ということで開く会が設立されました。

ここがダイバーシティの先端地域になっているかも知れない

普通に障がいのある人たちが働いている風景をここに来たお客さんは自然と見ています。

私たちの法人は設立当初から「仕事」をする施設でした。設立当初の時代は企業からの下請けで仕事をする施設が多かったそうです。ただ、企業から発注がこないと障がいのある人たちの収入もなくなってしまう、発注元次第ということがあったそうなので、共働舎はそういうことに左右されない自分たちで仕事をして販売するという自主事業を選びました。それがパン製造、花苗の生産、陶器の生産でした。

出来上がった製品については、障がいのある人たちが作ったから買って下さいというスタンスはやめましょうというのが設立当初から言われてきたことです。買う人たちが納得するもの、おいしいパンであったり、綺麗な花であったり、使いやすい器であったり。そういうものをつくろうということが根底にありました。

だから、障がいのあるスタッフたちにもいいものを作るために「このクオリティにして」ときちんと伝えます。うまくいかなければそこを支援するのが私たちの支援者の仕事なんです。

他のパン屋や商売をしているお店も毎日100%で動いているわけではないとおもいます。たぶん、毎日80%くらいの力で仕事をしているはず。ファール ニエンテも目指すところは一緒です。でも時々80%を下回って70%になってしまうことがあるかもしれない、そんな時に障がいのある人たちが働いている姿を見せることで10%上乗せができる。そういう考え方も無くはない。どちらにしても、出来上がるものを良いものに作って行きましょうという思想が一番根底にあります

そういう活動をしてくる中で、共働舎・はたらき本舗で培ってきたノウハウを活かし、もう一段階ステップアップして「仕事」をたくさんやる施設としてファール ニエンテが出来上がりました。仕事の内容としては、小麦作りを中心とした農業、パン製造販売、食堂での調理と接客です。特に小麦に着目すると素材を作るところから、製粉、パンやピザ作り、提供までどの段階にも障がいのあるスタッフがかかわっています。例えるなら六次産業+福祉。それに地域でお店を出しているので街づくりにも貢献しているといえるかもしれないですね。あまりに街に溶け込んだ風景になってしまっていますが、普通に出来ちゃっているのが辛かったりもしますよね。