本がある場所を中心にした楽しい街とは?

本屋をやりたい人にとって街にはパターンが二つあると思っていて、一つは閉鎖的、というかチャレンジをする人が少ない場合です。自分は本屋が町に必要だと思うしで本屋を作りたい想いがあるんだけど、誰かがやるなら……と待っていても街の誰もやらないから自分で本屋を開店したパターン。もう一つは他の人もやっていて、自分もじゃあ本屋を始めてみようとなったパターンの二つがある。ほかの地方やほかの小売店でももしかしたら一緒かもしれないけど。

例えば、八戸はけっこう開放的らしくて、八戸ブックセンターを中心に街の書店がブックイベントを開いています。昔ながらの本屋のほかにも飲める本屋のAND BOOKSがあって、八戸ではあたらしく本屋を始める人がもしかしたら今後少しずつ増えるんじゃないかと思っています。これは後者のパターンですね。

そのほかにも最初のパターンには当てはめにくいけど、例えば下北沢は新刊書店が多かったけど、今はほとんどなく、古本屋が街の本屋をやっているような感じです。一時期完全に空白地帯になったけど、今では古本屋が増えてます。街で本屋的なものは求められているけど、実は新刊で買うような人たちはあまりいないみたいなんですね。

清澄白河の例も挙げると、ARiSE COFFEE ROASTERSなどのカフェや喫茶店がそれなりにあり、本屋さんもあると良いよねとずっと言われていたようなんだけどしばらくめぼしい本屋が1店しかなかったんですよね。それがもともと書店員で有名だった方が、古本屋の「しまぶっく」を2010年に始めてから、その後にsmokebooksとEXLIBRISが出来ました。1つ本屋が出来たことで波及していった例ですね。

地方の例だと最近はずっと尾道を推しています。尾道には変わった本屋が二つあって、ひとつは「本と音楽 紙片」。ここは空間と選書のセンスがとにかくハンパないんです。「あなごのねどこ」というゲストハウスがある建物の奥にあって、分かりづらいけれど、その立地も含めて素晴らしいんです。もうひとつは深夜にだけ開く古本屋があって、去年か一昨年のPOPEYEの本屋特集(2017年 9月号 [君の街から、本屋が消えたら大変だ! ])で取り上げられた「弐拾dB」です。ここも古い医院を利用しているのですが深夜にだけ開く古本屋だなんてまるで物語の中みたいじゃないですか。「本と音楽 紙片」と「弐拾dB」という際立った本屋がほぼ同じ地域にあるわけです。

このコンボがめちゃくちゃ面白いと思っているんですが、さらに尾道には一週間に深夜に数回だけ開くボトルバーという世界で初めての業態もあるんですね。その場所もすごく分かりにくい場所にあるのですが詳しいことは秘密なので地元の方に聞いてみてください。

こんな感じでそもそも紹介されてないと絶対行く人がいないだろうって場所にある店も多くてめちゃくちゃ面白いんです。人が繊細なままいられる場所という感じがしていて、都会生まれ都会育ちの僕としては、もしかしたらちょっとナーバスすぎるところもある、自分にとってはある意味での毒がある場所ですね(笑)でもそれも含めて本当にいい街なんです。

あとその近辺だと広島市に知り合いがやっている「READAN DEAT」があります。ここは「広島にはzineやリトルプレスを置いている場所がなくなってしまった。じゃあ自分で作ってやる」と店主が奮起して開いた店です。開業から数年立ちますが、結果として周囲に面白い個人店が増えてきているそうです。ひとつの意志ある本屋が街を変え始めている例ですね。

すごく良い図書館がある街も、僕はいいところだと思うんですよね。盛岡駅からJR東北本線で20分ぐらいの場所に紫波中央駅があるんですが、その駅前にオガール紫波という複合施設があります。学校のすぐ近くに、図書館と宿と飲食店などが混ざっているところがあるんです。

そこがすごく宿としても過ごしやすいんですが、何が良かったかといえば夕方行くと学生がすごくいっぱいいるんですよ。併設の図書館にもたくさん。人を集めるための場所に本のある場所が選ばれて、実際に沢山の人が利用しているんです。こういった例を見ていても本のある場所自体はなくなっていかないだろうと感じますよね。

本屋がコミュニティのハブになっていること

コミュニティの中心というと、例えばREADAN DEATさんは広島のzineやリトルプレスが好きな人が集まっているだろうし、品揃えが特化していたりイベントを頻繁に開催するようなところにはコミュニティが生まれるているようです。最近は本を売るだけでなくそういった場を意識的に作ろうとしている本屋も出来てきていますし。

例えば吉祥寺にあるブックマンションさん。うちと同じで売り場をお貸しするシステムです。僕の店は月額5000円で一箱貸してるんですけど、そういうようなシステムで運営している店がうちやブックマンションさん以外にも何個もあります。

ブックマンションはシステムや運営を公開することで、そのやり方を真似て全国各地に本屋さんを作って欲しいらしいです。棚貸しだと出店者(間借り店主)が少しずつ家賃を負担するから個人の負担が少なくて済むし、本のある場所が比較的楽に作れます。

こういう店はせっかくたくさんの人が棚を借りるので、店主としてはただ本を売るだけでなくて店に参加してもらいたいんです。そのための仕掛けとしてイベント開催のハードルを下げることが多いですね。例えばZINEやリトルプレスの作家さんが間借り店主として入ったときに出版イベントが簡単にできるようにして、それぞれの間借り店主が小さなコミュニティを作っていけるようにしています。そのほかにも一日店主のように店番をしてもらうことで、どんな本が売れていくのか肌で感じてもらったり、間借り店主の交流会を開いたり。意図的にコミュニティが生まれるようにしているようですし、うちでもそうしています。このやり方は今後、増えていく気がしますね。

どんな方が間借りをするの?

和氣

うちの店ではキュレーションタイプの人が多いかな。キュレーションタイプか本を売ることに価値を見出している人ですね。「これがこんな人に売れたんだ」という本屋ごっこみたいなことをしたい人、こういう場所で本を売ることに価値を見いだす人が、うちの場合は今のところ多いかな。

でも今後は本を作る側の人ももっと入ってくるだろうし、僕としてはそういった人にもっと借りてほしいんです。なぜかと言えば、もっと作り手さんと売る人がごちゃごちゃ混ざるような形にしたほうが場として面白くなると思うんですよね。

うちは実店舗の人も十何店舗か入っています。棚貸しをしている店で実店舗を持っている店が借りているのは多分うちしかないと思うんですね。だからそういう人も一緒に他の間借り店主の活動を知って交流するような場になっていければ、もっと面白いことができるんじゃないかと思っています。

そもそも、本屋が好きになったのは小さいころの体験?

これが最近なんですよ。大学生のころです。大学のときに先輩がやっていた高田馬場のBOOKOFFでバイトしてたんですよ。そこのブックオフでは自分の棚を作らせてくれたんですよね。しかも早稲田の近くだから現代思想や理系の本も時々来て、だからそういう本を査定するわけですよ。一応Amazonのマーケットプレイスを参考にしながらですが、それ以外の基準もあって、完全に値付けをこっちが決められるわけではないけど、これがうちだとこれくらいだなって仕事をすることがすごく面白くかった。そのときに、この何とか工学みたいな話とか、なんとか学みたいなもので飯を食ってる人がいるんだということを知れたのがめちゃくちゃ面白かったんです。そういう知らないことがいっぱいある、未知の世界への扉みたいなものがたくさんある状況が楽しかったことが原体験ですね。

なぜ街の本屋にフォーカスしたのか?

和氣

自分が本屋をやりたいと思っていたからですね。独立したいとなったときに、やるなら大学時代みたいに色んな本に触れ、いろんな本に囲まれるようなことがやれたら面白いな、しかも好き勝手にやれたら面白いだろうなと思っていて、そういうことをやるんなら、個人じゃないとできないし。それで結果的に独立本屋をフォーカスするようになったんです。それに、あんまり大きい組織に属することが好きじゃないので。

以前からずっと思っていたし独立して本当に実感したことがあって、それは僕は基本的に組織というものが苦手だということでした。というのも、たぶん日本的な組織のことを僕は信用していなくて。『失敗の本質』やいろいろな本を読んだり、いろいろなニュースを見聞きしている中で、今の世の中、何なんだろうねと思うことが多いからです。その原因が僕は、日本的な組織にあると思っていて、人は集団になるとあまり良くないものになるんじゃないかと思っています。組織だから実現されることはめちゃくちゃあるとは思うんだけど、でもそれは多分組織をちゃんとデザインする人間がいないとできないと思うし、僕はそういう組織をまだ体験したことがないので、自分にはあまり縁のないことだと思っている。だから独立したいっていう気持ちが初めにあり、そのために何やるんだろってタイミングでなら本屋だという考え方だった。

その時にせっかくだからブログとネットにアップしていこうとしたのも、自分が文章を書くのが嫌いじゃないからなんですよね。毎日書けって言われたらに毎日書けるし、ずっと続けていけば、ある程度のレベルになるだろうし、そうすれば、万が一、本屋になれなくても発信する側としても食べていけることはできるかも……と考えて、活動当初から発信もしっかりしていこうと決めていたんです。

それに、ちょうど僕と同じ年代で本屋のことをめちゃくちゃ詳しく発信している人がいないんですよ。本屋について発信しているのはだいたい一回りから二回りぐらい年上の人なんです。だから多分これは行けるだろうなという算段も活動当初からあった。

でもそれはもともとサブで、本屋になるまでの副次的なものだったし、本当は本屋になりたかったんです。それがあるときから、「サブの方が仕事として大きくなっていないか?」となっていった。「どうやらサブの方が求められているらしい……」となって結果的にそっちの方が早くモノになったんです。