逗子でリセットする感覚

余白って大事ですよね。下町は時間に追われるせっかちな感じがあるのに対して、逗子は時間がゆったりしている感じがするし、夜は街が静かになるのが早いからあんまり遅くまでって感じもないし。だから逗子でストレス解消している感じがします。リセットする感じはあるかもしれません。忙しいウィークデーを過ごした後そのまま同じ家で過ごすと、続くじゃないですか、忙しいモードが。逗子で1回リセットしてまた来週から頑張る。そんなうまい切り替えができています。

逗子ってオシャレですよね。今朝も近くにお気に入りのカフェがあって、そこでモーニングのトーストにベーコンと卵が乗ったのを食べて、コーヒーを飲んできたんですけど、正直僕に似合わないオシャレさでした(笑)

逗子はその土地の資源の活かし方がとても上手だと思います。あと人の良さもありますしね。地域活性の事例でよく出てくる島根の海士町は元町長さんがとてもオープンでいろんな人を受け入れていると聞きます。高校の後輩も海士町に移住したんですけど、移住した瞬間から仕事を与えてもらったみたいで、温かいなと。やっぱり海とともに暮らしている地域はオープンなんでしょうね。福岡なんかもめっちゃオープンでしょ。すごく単純な理屈なんだけど、海があると開放感があって、みんな友だちみたいな感じだし。

逗子にいる人は表情が豊かっていうか、みんなイキイキしていて、あとは声がデカい(笑)。やっぱり自然とか海に囲まれている人たちは、そういう意味では心に余裕がある気がします。嫌なことを全部海に流しているんじゃないかな。しかも意識せず勝手に流れていっている感じがする。

あと、文化や歴史のある土地が好きです。下町は文化に溢れていますが、逗子は逗子で歴史があるんですよね。鎌倉時代に作られた国内最古の築港遺跡である和賀江島って埋立地が残っていて、材木座海岸のところに石を束ねて作ったものが未だに残っているんですよ、これはすごいと思う。ほかにも家の裏に室町時代から続く神社があったりとか逗子にもいろんな歴史があるなって。

下町と逗子ではテイストは全然違うけれど、歴史があるところ、ちゃんと地域に太い根が根付いているところという共通項があって、そういう本質的に自分が好きな土地で暮らしているから二拠点生活がうまくいっているんだと思います。

環境が変わると性格も変わる

最近SUPを始めました。最初はやるつもりはなかったけど、逗子に来るとそういうのもやりたくなってきたんです。面白いですよね、下町だけにいたらSUPをやろうなんて思わないし。こっちに住んだ途端SUPを始めたりとか、突然コーヒーを飲みだしたりとか(笑)

実はコーヒーを今までほとんど飲まなかったんです。逗子に来るまでは、どちらかというとお茶を飲んでた(笑)。

下町で暮らしていると、僕が影響を受けやすいだけかも知れないけど、ちょっと江戸っ子感が出るわけですよ。逗子に来ると人格が変わってきたみたいで、海の見えるカフェでコーヒーが飲みたいなと思い始めてくるんですよね。ある種の二重人格になってくるんですよ。下町だとお茶を飲みたくなって、逗子だと自然の中でコーヒーが飲みたい感覚になる。実は海を眺めながらコーヒーとかって、もともとちょっと洒落臭いなと思っていました(笑)。でもそんな洒落臭いと思っていたものもいいなと思い始めてしまって。住む場所が変わるだけで、面白いですよね。でも旅行だと1回行って終わりだからそこまで変わらない。

ただ、数年で逗子の家は売るかも知れないですね。売ってまた全然違うところに住んでもいいなと思う。でも、ピボットのように軸足として下町の暮らしは残すと思いますね。ピボットの片側として今は逗子で、今度はまた違う場所みたいな。でも二拠点生活になると、関東になってきてしまうんだろうな。遠くに行くと交通費も掛かるから、やっぱり逗子がちょうどいいのかも。 

二拠点を持つことは、仕事に影響することはありますか?

仕事には影響あると思います。自分の職業柄かも知れないけど、世の中のトレンドを汲んでアイデアを考えるときに、下町発想だけだとアイデアが偏る気がしたんですよね。

世の中には下町が好きな人もいるけど、西海岸ぽいものが好きな人がいたりとか、街が好きな人もいるけど、アウトドアが好きな人もいるし、そういう世界や考え方が二拠点生活をすることで、広がっている感じなのかもしれません。

どっちだと考えやすいみたいなことはないけど、刺激が違うのかも知れないですね。意識はしていないけど、下町での考え方と逗子で考えているときってちょっと違うかもしれないです。企画を考えるときって、誰かを思い浮かべながら企画を考えたりするじゃないですか。そのときに下町にいるときは割と忙しいモードで考えるけど、逗子に来るとちょっと余白のあるのんびりした暮らしをおくる人をイメージして考えているような気がしています。そういう意味で下町で考えるときと、逗子で考えるときで企画の質が変わってくる気がします。アイデアの広がりがきっとあるんでしょうね。

イノベーションって、それまでは相反していたものの組み合わせから生まれたりしますよね。持ち歩くラジカセとか、家族で遊ぶゲーム機とか、シャンプーしない床屋とか。下町と逗子の二拠点生活をしてみて、ふと、東と西をもっとハイブリッドにしたほうがいいんじゃないかと思ったんですよね。例えば、伝統的なものをもっと西海岸風にアレンジしてもいいのかも。海外だと伝統工芸の工房がとてもオシャレなハイブランドになっているように、日本の伝統工芸ももっと西海岸の文化と混ぜ合わさってもいい気がします。佐賀の有田焼がサードウェーブコーヒーのドリッパーをつくっているのとかいいですよね。東と西の融合がイノベーションにつながると思うんです。

欲望は振り子のように行き来する

今、広告会社の博報堂という会社で働いているのですが、社内プロジェクトで「ヒット習慣メーカーズ」という活動を立ち上げました。日本は、人口減少社会に突入したので、マーケティングのあり方も変わってくると思ったんですよね。トライアルを促して新規顧客を増やすマーケティングから、持続的な顧客との関係づくりを生み出すマーケティングへと。だから、どうやって企業の商品を「習慣化」させるか?というのが、今まで以上に大事になってきます。で、習慣化させる上で必要になってくるのは、社会潮流の変化をいち早くとらえて、その波に乗ること。

例えばひとつ事例を挙げると、最近、平日に会社の人とではなく土日に家族や友達と居酒屋に行く人が増えています。土曜日の繁華街を歩くと居酒屋が繁盛しているのに気が付くはずです。知らず知らずのうちに、人々の習慣が変わってきていたんですよね。その潮流をいち早くつかんだ大手居酒屋チェーンは、ターゲットをサラリーマンからファミリーに大胆にシフトしました。ソフトクリーム無料など子ども向けのサービスを増やしたり、全面禁煙に踏み込んだりすることでビジネスを成功させています。

「ヒット習慣メーカーズ」で、社会潮流の兆しの分析をしていたら、面白いことがわかってきました。それは、人の欲望は振り子のように行き来しているということ。SNSが拡がってみんなで同じ服装をしたいという同調欲求が高まったと思ったら、その反動でファッション誌に自分らしさという言葉がよく見られるようになりました。また、ちょっと前まではグローバル化とか競争社会とかストイックさを求められていたのに、今は仕事をセーブしたり服装もどんどんラフになり、緩和の方向に向かってきましたよね。働き上手より遊び上手の方がかっこいいんですよね。

人々の欲求が今どんな状況で、これからどっちに向かっていくか?という視点で世の中を見ていると、社会潮流の変化を敏感にとらえることができるようになっていきます。

二拠点生活のよさって、そういう欲望の振れ幅を、暮らしの中で両方同時に感じられることなんですよ。都市と自然、伝統と革新、東と西、和と洋。そういった相反するものを行き来することで、世の中を俯瞰で見られる気がするし、新たなヒントを得られると思います。そういう意味では、仕事で行き詰ったり、閉塞感を感じたりしたら、二地域居住をしてみるのもいいかもしれません。異なる文化が混じり合って新しいアイデアや方向性が見えてくるのではないでしょうか。