東急ハンズから中川政七商店へ

僕にとって東急ハンズはまともに勤めた最初の会社です。バイヤーの仕事ではいろんな世界の人や海外のメーカーと折衝したり、デジタルマーケティング/システムの部署ではデジタルテクノロジーでお客様の満足度をどこまで高めていけるのかを追求していました。

どんな仕事も、最終的にはお客様の満足度を最大化することが役目になるので、部署や個人など決められたフレームの中だけで効果を最大化しても、事業全体・お客様全体に対するインパクトは薄い場合があるということに気付きます。もっと上位レイヤーでおかしいことや改善すべきがあったら、そこから根治しないとお客様に還元できる価値は大幅には高まっていかない。だからこそ組織の中でどう横断するのか、どう俯瞰するかが重要になります。たくさんの成長機会をくれた東急ハンズには感謝しかありません。

中川政七商店には声を掛けてもらい話を聞きに行きました。そのとき話を伺った当時の社長(現会長の十三代 中川政七氏)の視座は自分よりも数段高く、自社の利益や自社の顧客満足度の最大化の話だけではなく、彼は日本の工芸や文化が薄れる・無くなってしまうところに危機感がありました。その視座と、それに連動した実行の実直さに感銘を受け、脊髄反射的に入社を決めました。

余白という言葉を聴いたときに、どんなことを連想しますか?

んー、、、そうですね。余白と聞いてパッと連想するのはイノベーションの話ですかね。僕がよくする話が一つあります。前提条件としてチームの仕事は、基本的にある程度型が決まっている仕事になるので、それを日々運用していくこと。もう少しいうと日々運用しながら改善していく仕事なんですよ。

その運用精度をどんどん高めて、これまで”2”の時間が掛かっていたものを、今年は”1.7”まで持っていけるようにすることが求められる。実現すると余った0.3で更により良くする何かを入れ込むことが出来ると。ただ一方で、新しいものにチャレンジすることにかける時間の分母はもっと重要視した方がいいと思っているわけです。0.3じゃ、絶対に足りない。

運用改善の仕事だけをやっていると、インプット幅も狭くなりますから、新しいことは当然なかなか生まれてこない。だから、イノベーションを起こすには「インフラ整備」が大事だと思っています。僕の解釈でいうと、そのイノベーションを起こすインフラ環境整備のひとつは、例えば仕事の約3割を革新に充てる仕組みを組み込んじゃうこと。やるべきことが100個あるとしたら下から30個はやらない。その代わり、これまでやったことがないことを30個強引に追加するような。そこがまさに既存の業務のなかから約3割の余白が生まれるイノベーションのためのインフラ整備だったりすると思っています。

例えばサイトの制作や十中八九のようなオウンドメディアの立ち上げもそうですけど、スケジュールを円滑に遂行するにはバッファの設計がいります。ただそのバッファの設計をダブつかせず、危なくもなくするところにこそ、余白の設計が大事だと思っています。それをチームのフェーズによっては3割を今日は3時間がっつり議論に使ってみんなで考えてみよう!でもいいし、課題図書をガッツリ読み込むべし!でも何でも良いんだけど、そういった余白を経営層もしくは上司が設計しないと、インプット・アウトプットの幅は広がりにくい=イノベーションは起きてこないと思ってますね。

その3割の感覚はいつから持っているのですか?

無意識的にずっと思っていたことの一つだと思います。僕は東急ハンズ時代からわりと自分で企画をやらせて欲しいと、上司に突撃して、許可をもらって実行するパターンが仕事として多かった。それは僕が優れていたからとかでは全くなく、そういう風土があるチームだったからということが最大要因です。

でも一般的な企業では新しい提案を立てたことがないとか、企画を立てたけど採用されたことがないという方も多いと思っています。そうなると打席数が少ないということですから、個人のアイデア量も質も当然差が出る。だから、どこまで行ってもひとりのOSに頼るよりは、たくさんのOSを並列にした方が処理計算結果は良くなるはずです。何よりも一番良いことはアイデアにいろんな視点が増えることですよね。人によって解釈が違うから、処理計算と視点を増やすこと自体に、イノベーションの種があると思っているわけです。各OS自体のアップデートも重要。

そうなると彼らの意見がどうしたら出てきやすいかの仕組み作りが大事になります。それでみんなが自然とチャレンジを楽しむようになってきたら、別に失敗してもいいし、そこから自分たちのカルチャーが育ってくると思っています。その過程の中でよりイノベーティブな働き方や時間の使い方などがあると思いますし、そういうことを組織としてデザインすることは、可能ですし、義務です。

ありがちな話で、部下に何かアイデアあるって聞くことはどう感じますか?

いきなり言われても革新となるアイデアは出ないと思いますよ、誰でも。繰り返しですがこれをやれと指示があり実行するというフレームの人の場合、革新については考えたこともないし、基礎となるインプットもできてないし、そもそも多様なインプットを上司がさせてないことの方が多いでしょうから、そうだとそもそも難しいでしょうねという意味です。例えば個性を重要視しようとか、ダイバーシティーみたいなものを思い浮かべてみてください。でも小学校だと整列だったり「授業中だから静かにしなさい」とか制服など集団で規律を守ることを重要視する。和の大切さ自体は素晴らしいことですけどね。

逆に言うと個性を出してはいけないと教育の過程ではルールで一定量統制していたじゃないですか。でも、いきなり就活するタイミングであなただけの”持ち味”は何ですかって無茶な話が出てくるわけです。そんな取ってつけた「私だけにしか出来ないこと」で就職が決まるじゃないですか。それで就職をすれば、次はまたこれをやれってフレームの中の仕事が上司や経営層から落ちてくるわけじゃないですか。

もちろん経験や能力評価があって持つフレームの幅は変わってきますが、極端な話としてそういうことが前提に状況としてあるとした場合、僕は経営者としてどうすべきか?今、何ができるか?と言ったら、そのフレームの在り方を変えることしかない。

過去は変えられないから、今の自分たちが積み上がりやすいフレームをつくり、自分たちの未来について考える。

作業をこなすというところからはイノベーションは生まれにくい。こなしていく中で改善することは出来るけど、言ってるだけじゃ出来るわけがない。会社としてインフラ整備が必要。それなくして若手からアイデアが出てこない・活気がないと言うのは、単に経営者が狂っているということ。会社としてなにがしかのアイデアが出やすい仕組みを入れないと若手は活き活き出来ない。

中川政七商店の若手が活発なのはみんなが共感している強いビジョンの存在に加えて、このように彼らが「自由に振る舞いやすい」状態をカルチャー的にも仕組み的にも作り上げられているからかなと。

それから、もっとも重要なのは僕みたいな経営層からは、質の高い仕組みや戦略はうまれるかもしれないけど、基本イノベーションは出てこないと思うくらいでいること。そういうことは若い子の感性から出てくるし、40歳ぐらいになると感性なんか死に絶えていっているようなものですよね〜くらいの気持ちで丁度いいかなと。僕らは若い子の感性を信じて動いて投資して、ビジネス的に失敗しそうになったら軌道修正を図ることがやるべきことです。

極論を続けてしまいましたが言いたかったことは、世代・役職・性別など、会社の中には基礎的な多様性はある。であれば、その多様な視点をしっかり活かすことが大事だなという話です。ひとつの切り口だけで考えるのは、本来あるべき選択肢を自ら狭める行為ですから。そして、世代交代はちゃんとやっていかないといけない。僕らも職人とともに生きる業界なので、世代交代はすごく課題ですけど、僕らがやれることは一個人だとたかが知れています。ひとりで速く行くのではなく、みんなで遠くに行く。

そのために余白の設計が大事なるのかなとは思います。