走り回る原体験は、旅行での初期衝動

平林

旅行はされます?

別所

もちろん。海外に行くときは放浪ばっかりしてました。行きのチケットしか買わないみたいな。

平林

そうだとするとすごく話が通じやすい気がする。

別所

バックパック担いで大学生の頃は海外を放浪ばっかりしてましたね。

平林

典型的な将来社会不適合者ですね(笑)。

別所

はい。それで脱線脱線でいつまでも大学院延ばして、大学出ないままに大学教員になったんで、それって大学をずっと卒業していない状態なわけですよ。形の上では一応卒業しているんですけど。気分的には学生時代の延長線上にいるんで。

平林

困った人ですねー。

別所

偉そうに授業やってますけど学生によく言うのは、俺本当にダメだからね、真似しちゃダメだよ、ちゃんと就職しいやみたいなことを言うんです。

平林

僕は就職活動を一秒もしないで卒業して、そのあと外国に逃げてしまったという。

別所

僕は卒業しないで大学に逃げてばっかりでしたからね。テンポラリーに逃げてましたね。

平林

たぶんおススメ出来ない度では似たようなもんだと思いますね。

別所

さっきこの対談が始まる前に、平林さんがご自身のお仕事を「綱渡り」と言ってはったんですけど、今の人生例えば28歳までロールバックしてやり直したとしたら、僕は綱から落ちる自信ありますもん。絶対同じようにならないし、もっとひどくなると思います。

平林

たまたまですよね。

別所

本当にたまたま。カメラを始めたのは本当にたまたまなんで。

平林

旅行で考えれば、旅行をしていると片道切符だったりとか、向こうに行くまでは考えますけど、行ってからは考えないじゃないですか。例えば最初の目的地について、宿探しすら現地に着いてからで。

次の街はどこへ行こうとなったとき、あった人の話を聞いているうちにそんな場所があるんだね。じゃあ行ってみようとなるじゃないですか。

別所

僕は英語が下手やったんで、宿で助けてくれたアメリカの学生さんが、明日俺は帰るからイギリス中で集めた無料チケットをあげるといきなりくれて、それを見たらいくつかあるなかでエディンバラ行きがあったんです。じゃあ北へ行こうと思ってロンドンから北に行くと適当に決めたことはあります。

平林

でも、それがなければそっちに行かないですもんね。僕は前にいろいろ飽きちゃって、旅行会社さんで決めてくださいとお願いをして決めてもらったことがあるんですよ。何月何日からどれくらいの時間が取れますよと言って、そうしたら、結果的にエジプトに行くことになって。

別所

最高だ。最高だ。

平林

それまでエジプトなんて何にも考えてなかったんですよ。もちろんピラミッドを見てみたいとかスフィンクスを見たいとか昔からの憧れはありました。薄々と心の奥のほうにあったエジプトが突然前に出てくると、エジプトばかり考えるようになり、すごく喜んでエジプトに行ったら、すごく良かった。

別所

初期衝動大事なんですよ。

平林

あれがなければエジプトに行ってないし、結果としてエジプトのカイロから別件でイスタンブールに行ったんですね。

別所

いいですね。イスタンブールは僕も行ってみたいんですよ。

平林

僕がエジプトを出た次の日にエジプト革命が起こって、旅行会社の人がすごく心配してくれてました(笑)。

でも本当に良い経験になったし、それで思うのは自分で考えて絶対こっちだと思うものもその通りにもいかないし。

別所

正しいときもありますけど、これが意外と正しくないんですよね。

平林

読めないですもん。エジプトに何があるかなんて分からないし。ある程度向こうからもらって、もらったものを自分でどう消化していくかが大切な気がする。

30歳を越えてカメラマンの道へ

平林

ぼくは写真を始めたこと自体は早いけど、カメラマンになる前が商社で働く会社員だった。カメラマンになったのは30歳を過ぎてからですね。

別所

同じですね。33〜34歳のころかな。ちょうどそのころにCanonがkiss X2というカメラを出しました。周りがそのカメラを買う人が多くて、そうするとみんな自慢もしたくなりますよね。で、自慢されると欲しくなるもんで買ってしまいました。でも実は写真に興味が全く湧きませんでした。それで2年ぐらい間が空き、NikonのD800をなぜか買ってしまった流れで、そこから本格的にカメラを始めました。

平林

写真を仕事にしたい人がたくさんいるなかで、何気なくカメラを始めた人がそんな流れになっちゃうのがすごいですよね。

別所

でも最近そういう人が多くないですか?

平林

今はカメラマンになる入口も一つじゃないですもんね。

別所

そうなんですよ。スマホでみんな写真撮るようになり、最近もともと適正がある人が本格的に出てくるのをよく見ますね。

平林

昔ながらのスタジオで経験を積む人ももちろんいますけど、それだけではダメな時代になってきた気がしますね。

別所

平林さんはお会いした最初のご挨拶のタイミングで、身の回り360度のうち270度くらいが興味の範囲だとおっしゃってて、今はそんな感じで全方位にアンテナ張ってるパターンの人が多い。仕事も2〜3つ持っている人が多くて、そのうち1つが写真家である人も最近はよく見ます。

平林

僕の勝手な考え方だと、その道一筋何十年の料理人みたいな感じで、カメラマンや他の職種も昔はすごく専門性が大切にされていましたよね。カメラだったらアシスタント5〜10年やって。

別所

ライト持ちで5年とかレフ持ちで3年とかね。

平林

僕はそれ全然無理です。一度やってみようと思ってアシスタントに付いたんですよ。そもそもカメラマンを目指し始めたのが30歳を過ぎてからだったから、アシスタントに付こうと思ったけど、歳だからダメだとけっこう言われました。今思えば30歳で歳だと言うのは舐めた世界ですよね。

でもカメラマンたちが若いなかで、自分より歳上のアシスタントを使わなきゃいけないやり辛さもあったんでしょうけどね。そういうことが当たり前で、逆にそれじゃないとカメラマンにはなれないと周りから言われてましたね。

別所

僕の始めたころも例えばインスタグラムにプロの人が写真をアップする世界はまだ来てなかったし、Twitterもまだまだ写真をアップすることもなかったので、意識とかその辺りまだまだ醸成されてなかったですね。

平林

変わったんですね。

別所

変わりましたね。メディアの使い方から何から。

平林

全方位という意味ではカメラマンもカメラだけやっていればいい世界ではなくて、特に広告写真を撮っている場合と表現をする場合では変わってくると思う。僕がすごく思うのは広告写真と言えども言われたままにただ技術力だけで撮ってるだけでは成り立つようには思えないんですよ。そのときに何が必要かというと、自分の守備範囲や視野の広さが、写真に影響を与えてきていると思うんですよね。

別所

僕がやっている仕事のなかで、ある企業のInstagramの写真を撮る仕事があるんですが、一昔前の落ち着いた写真を要求されるんじゃなくて、はじめに契約の段階で好きに撮ってくれと言われました。ほんのわずかな「テーマ」だけ示されて、ほとんど後は自由に撮れて、作家性を押し出す形でやると、今までの広告の風景写真とは全然違う面白さが出せました。そういうことって、ちょっと前にはなかったですよね。

写真を見る側受け取る側の人たちも、写真のプロたちと同じようなシチュエーションに巻き込まれている感じが面白い。よく「どうやって写真を撮るんですか」と聞かれるんですが、ふつうに機材担いで三脚持って、一人で全部やります。それこそ花火やったら山に登ります。そうすると、「一人でやられるんですか、アシスタントを付けて行かれるんですか?」と聞かれるから、「いえいえ一人で行きますよ」と言うと、「ええ、そうなんですか!?」って驚かれたりしますね。多分一人で全部やっちゃうような仕事のやり方が、いわゆる「写真の仕事」の定番イメージとは乖離しているんでしょうね。

平林

そうですね。こうしたら良いというものが逆に分からないですね。やりたいようにやっていたら今がある感じです。成り行きなんでね。どうやったら良い写真が撮れるのか聞かれるんですけど、こっちが聞きたいですよ。

別所

聞きたいよ(笑)毎回その現場で試行錯誤してますよね。

平林

大して上手く撮れていないものが評価されたりしますよね。

別所

そうなんですよ。それが辛いときもありますよね。

平林

頑張って撮ったのに、誰も相手にしてくれないときもありますよね。

別所

それもよくあるんですよね。

平林

そんなことばっかですよ。綱渡りですよ。

別所

明日には自分が消えているかも知れないと思うから、大学の研究者を辞められないんですよね。ただ、それはネガティブな感じで二つの仕事をやっているわけではなくて、文学研究も写真もごちゃごちゃ続けているうちに、この春は「写真もやる研究者」として採用して頂きました。そういうことも起こりうる話です。

平林

バランスは違うと思うんですけど、写真をやる前は商社勤めだった変なバックグラウンドがあるんで、そういうビジネス面と写真がある。だから写真の中にビジネス面がけっこう顔を出していて、自分の中でmixされていった。

いろいろ好き放題やっていると声が掛かったりするようになり、例えば同志社大学のメディア学科等で、写真を軸にした、物事の本質をみることの大切さ、みたいな講義をさせてもらったりするんですが、自然の成り行きでそうなってきたのはすごくありますね。自分で計算して売り込んでいけたら、それはそれですごいことだと思うんですよ。自分ではどこに何があるか分からない。

別所

鉱脈がどこにあるかなんて全く見えないですよね。

平林

走っていたら当たったって感じです(笑)