パンを作るきっかけは?

そもそもパン屋になりたかったわけじゃないんですよ。実家は新潟のお寺なので全然パン屋には関係ないし、たまたま上に兄が二人いたので、僕は家を継がなくてよかった。

それで将来どんな仕事をしようかと思っていました。ずっと高校まで野球をやっていたけどプロになるのは無理だなと思って。それで今後を考えたとき、もともとパンを食べるのは好きで、作ったことはなかったんですが、やはりパンの焼き上がりの香りがすごく好きだった。中学生のとき学校の前にすごく小さくて古いパン屋さんがあって、そこの親父さんに良くしてもらっていました。それを思い出したとき、あの匂いに囲まれるんだったらやりたいと思い、高校3年生の時に大学受験から専門学校へシフトしました。その後新潟から上京して、東京の専門学校に1年通った後、横浜ベイシェラトンホテル &タワーズのベーカリー部門で働き始めました。

なぜ数多あるパン屋のなかでホテルで働こうと?

もともと個人店からキャリアを始めようと思っていたんです。でも、お世話になっていた中学校前のパン屋の親父さんに進路を相談したら、求人があるんだったらホテルに行きなよって言われて、少しばかり軽い気持ちでここに応募したら働くことになりました。だから絶対パン屋になるんだとか、絶対ホテルで働くんだとか、そういうものはなかったのが正直なところです。

横浜ベイシェラトン &タワーズホテルで働く決めては?

それこそ本当に何も考えてなかったので、夏休み明けに専門学校に行くと、求人がいくつか貼ってあって、最初に目についた求人だったので「ご縁」ですね。このホテルに入って、やはりホテルなので同じ建物の中に和食もあったり、中華もあったりといわば異文化交流な感じがあった。いろんな部署との交流もしようと思えば、自分のさじ加減でいくらでも出来るという点で、入って良かったと思います。

今の仕事場で働いて良かった点

一番良かったと思った点は、ホテルにはペストリー、いわゆるお菓子の部署があったことですね。専門的な知識や技術も教えていただけますし、パン作りでは使わないような食材も使うので、自分の知識と経験の底上げに繋がったのが一番大きかったですね。街の小さいパン屋だとパンやサンドイッチ、ちょっとした焼き菓子ぐらいしかやってないお店もあるので、洋菓子などの専門知識も学べて、そこはすごくプラスになりました。

違うアプローチから学ぶこと

全く違う側面から、モノを考えている人がすぐ近くにたくさんいるので、同じ「食」という職種にあっても、別のキッチンに行くだけでも雰囲気は違いますし、刺激にはなりますね。この仕事はずっと同じような環境で毎日同じ風景というわけではないし、ホテルは自分で階段1つ上がれば全く違う世界が広がっています。

同じ職場なのに、発見がずっと続くのはすごく良い気がします。

大宗

そうですね。それがあったから、ここにいたのかもしれないです。同年代もいるし上司もいるし、そうか、だから僕はここにいたんですね。

一番パンを作っていて楽しい時はどんな瞬間ですか?

うまくいかない時ですね。うまくいかない時の方が面白いですね。パンは常に同じものを作ることは出来ない。いつも状況が違うし、たとえ同じ仕込みで取った生地でも全然違ったりする。それはやはり面白いし、いつまで経ってもそれだけでも飽きないですね。

昨日と同じようにやっても、今日は上手く出来ないとか、パン作りは「毎日やってみないとわからないこと」なんです。前日それで上手くいったとしても、その次の日は多分うまくいかない。同じやり方でやったら、いまいち良くない場合はそこでまたイメージしながら実践し、たとえ結果が出ても、またイメージしながら実践を繰り返します。

その日その日での勝負が大事ですね

大宗

そうですね。だからうまくいかない方が、パン作りは同じじゃないことに気づけるし、変えざるを得ないから面白いですね。

意外と成り行きで仕事を始めたら、自分に合っていたんですかね?

大宗

それはあるかもしれないですね。パンを作るという作業だけで、特に自分のお店のレシピだけを考えるのであれば、たぶんすごく小さい井の中の蛙だと思います。日本のパンはやはり外国から入ってきたものなので、ここがベースじゃないし、世界各国にそれこそ何千年と受け継がれてきた伝統もある。そこに日本は新しく関わってきたわけです。だから世界に目を向け、日本だけの世界にこだわらず、自分の知らないことを知る努力をできるだけする必要があると思います。

パンの伝統と革新のあいだに

フランスはパンの伝統を重んじる傾向にあるのかなと思います。フランスにはデクレ・パンというパンの法律(政令)がありまして、決められた原材料を使用しないと、パン・オ・トラディショナルフランセーズという名前で売ってはいけないとか。これを使っていないとパン・オ・ルヴァンで売ってはいけないみたいな明確なルールがあるんです。日本はそういうものが一切ないので、以前、フランスパンにちょっと油脂を入れた「ソフトフランス」という名前のパンが売られていました。だから日本へフランス人が来たときに、「何だこれは」と不思議に思うことがよくあったそうです。

フランスではそのルールを守るものは守り、それ以外は全然違う考え方でパンを作る。ルールを守っているから、じゃあ同じバゲットだけど、パン・オ・トラディショナルフランセーズとは言わず、バゲット○○というような新しい商品名で売られている。

しっかり守るべきものは守り、次世代に繋いで行くフランスの方法に、すごく感銘を受けました。フランスに比べて日本でのパン作りは自由だと思います。フランスで日本人の方が開いたお店のパンは、フランスでも受けているようです。例えばメロンパンや食パンは、最近フランス人のお客様にもとても売れているって聞きましたね。

昨今の食パンの生食ブームはどう思いますか?

大宗

やっぱり美味しいパンは美味しいと思います。甘いですし、柔らかいですし、食べやすい。美味しいとは思いますけど、僕はあまり作りたくないです。食パンは日本の食事パンだと思うので、甘さもそこまで強くなく、1年中朝食に食べたい食パンを作っていたいと思っています。

家でもパンは作るんですか?

大宗

それはよく聞かれるんですけど、家では作らないですね。オーブンや機材も違うので。子どもと一緒にフォカッチャとかを作ったことがあったんですけど、これではダメだよとつい言ってしまうんですよね。