他に仕事をしていたりしますか?

僕は専業で本屋をやっています。妻は普段は勤め人です。お店は、昨年の夏でオープンしてからまる2年になりますね。

なぜ今専業で本屋を開くことになったのですか?

もともと数年前から出版業界で働いていました。最初は出版社にいたんですけど、その後は出版社から在庫を預かって実際の物流をやっている倉庫会社にも勤めていました。それで製造と流通を一通り見たので、あとは小売を見てみたかった。きっかけとしてはそういう感じでした。そんなとき、たまたま赤坂の「双子のライオン堂」さんで、本屋入門という、本屋さんを始めたい人に向けた講座があったんですよ。

書店の経営や現場の大枠の話を聴くだけのセミナーとは違って、長期間にわたる実践型の講座でした。このおかげで界隈の知り合いがちょこちょこ増えたこともあり、自分も本屋を作ろうと思いました。そのときは独り身で結婚する気も無かったので、自分ひとりの食い扶持がどうにかできれば良いと思っていました。

じゃあ、ご結婚は最近なんですね?

そうですね。

彩子

籍を入れたのは一年前ですね。

妻と付き合い始めたのは、僕がお店を開いてまもなくでした。

彩子

実は彼がお店をはじめた二日目に、私がこの本屋を訪れて知り合いました(笑)。

私はただ本が好きなだけなんですよ。本好きが高じて、二年前に一箱古本市というイベントに初めて出ました。そのときに本を売るだけだとちょっとつまらないので、自分でイラストを描いたしおりを作ろうと思ったんです。

それで何かネタが無いかなって考えたときに、本が好きな人のあるあるネタを絵にしたら面白いと思い、ちょっとずつ描いていたんです。そうしたらツイッターで反響があって、そこから一気に100種類まで頑張りました。最初は5種類ぐらいの予定だったんですけどね。それを本屋さんに持って行って、こんなことやってるんですみたいな話をしているうちに、印刷して商品化できるんじゃないと、とある本屋さんが言ってくれたんです。

商品化のために動いているタイミングで、彼の本屋がオープンすることをネットで知りました。それで行ってみようと思って、2日目にスーベニアに来ました。面識はなかったけどTwitterでつながりはあったので、アカウント名を言ったら「ああ〜」って感じになって。そこからただのお客さんというより、ちょっと本の活動をしている人みたいな感じでした。

もう栞は売っているんですか?

売っています。うちのお店でも扱っていますが、ありがたいことに、今でもいろんな本屋さんから取扱いの話をいただいています。

この本屋のコンセプトを教えてください。

はっきりしたコンセプトはないんですけど、扱っているのは古本と新刊の両方です。割合は古本の方が多いです。最初から本屋をやるなら古本メインでやろうと思っていました。利益率もそうなんですけど、新刊をメインで扱って、イベントをたくさん企画して利益を出すモデルは自分に向いてないと思っています。イベントは出演者にもお客さんにもすごく気を遣いますし、とても労力がかかります。日程と場所だけ提供して丸投げもできるのかもしれませんが、自分はそういうことができません。ひとりでお店を回しているので、イベントに労力を取られて本の扱いが疎かになると嫌だなって思ってしまうんです。特に古本は新刊よりも手間がかかるので。

今はいろんな本屋さんでイベントをやっています。でも出演者は手弁当で出ている場合も多いので、イベントを回して自分は利益が出るけど、著者や出版社の利益がないんじゃ意味がないという個人的な考えもあります。読者と直接触れ合える、手売りすることで得られることもあると言っていただいても、それではちょっと著者や出版社に甘えすぎかなと思います。だからとりあえず古本中心で利益を作っていくことにしました。

実は、一回だけトークイベントをやったんですけど、ひとりで店を回しながら、スケジューリングや関係者全員への連絡、連動フェアの準備をやっているうちに、ちょっと無理な部分が出てしまいました。それ以降は、トークイベントはやっていないです。

お店としては、町の古本屋に新刊も置いている感覚でやっています。新刊は自分で品揃えを選べるので、ある程度は僕が読んだものが入っています。古本は自分で狙ったものを仕入れることが出来るわけではないので、お客さんの買取と、それとうちの場合は、古書組合に入っているのでその市場での仕入で成り立っている感じです。市場の品物は、基本的にひと山いくらで買います。

そのひと山をいくらで誰が買うか、入札形式でやっています。だから何でも欲しい商品が、いつでも手に入るわけではない。相場を考えつつ、他の古本屋さんよりも高い金額を入札しないと手に入りません。

市場は交換会とも呼ばれていて、出品物は古本屋が自分のところの在庫を持ち寄るんですよ。うちのような小さい古本屋がお客さんからジャンルを問わず買取ができるのは、市場を通して需要がある古本屋に渡すことができるからなんです。

重要なのは仕入れ部分

最近オープンした個人経営の本屋さんは、お店が小さかったり、新刊メインだと利益率が低かったりで専業で食べていくのは難しいです。でも、昔からある古本屋さんは今も専業で食べているところもあるんですよ。実際にやれてる人がいるなら自分にもできるだろうと思いましたし、そのために古書組合に入って、いろいろと勉強をしているんです。

昔ながらのやり方を知っている古本屋さんと一緒に仕事をしてると、確かにやり方次第で家族を養って食べいくこともできるよねとか、いろいろ見えてくるんです。

ただ、組合に入るだけでも、東京の場合は50万円ぐらいかかるんですよ。もちろん組合の質を担保する意味である程度のハードルは必要ですが、新しく小さな本屋さんは、組合についてよく知らないとこの金額に躊躇してしまいます。僕は知り合いの古本屋さんから組合の話を聞いていたので十分に理解していましたし、実際にこの金額を払うだけの価値はあったと思っています。

仕入れたものはそこで売るんですか?

お店で売れるものは販売していますし、市場でも売買をするので。交換会のウェイトも大きいです。そういうものを知らないとやりようもないですよね。とはいえ、僕のお店はまだそんなに食べていけるほどの状態にはなっていないです。でも、お手本になるものが目の前にいっぱいあるので、少しずつそこに近付ければいいかなと思いながらやっているところです。

うちは立地が悪く、イベントもやっていないから、店頭にお客さんはそんなに来ないんです。開業まもない頃は、お客さんが少なくて不安になったこともありました。そしてお客さんが来ても、昔ほど本を買う人はあまりいない。でも今はネットでも販売はできるし、店頭とのバランスが上手くできれば良いかなと思っていますいろいろ売上の作り方はありますし、どうしても手売りしかしたくないというこだわりがある方にも、そのためのやり方があると思います。

今でも実験的な趣向の本屋経営

やっぱり自分ひとりの商売だと、やったことのリアクションがすごく速く返ってくるんで楽しいんです。だから日々こうしてみようとか実験を繰り返しています。ただ本を売っているだけですけど、ちょっとやり方を変えるだけで、ネット販売の売り上げも店頭のお客さんの反応も変わってきます。

よく本屋さんの本の並びのことを、「選書」とか「文脈」って言われ方をするんです。でも僕はお客さんにとってそれ関係ないと思っています。

たしかにある程度の影響はお客さんに与えることはあると思うんですけど、結局もうお客さんは、それぞれ興味によりけりですよね。それこそ目で見えている色すらみんな違うはずなので、誰もが緑色は緑色という固有名詞で認識しているけど、本当にそれがみんな見ている同じ緑色かなんて分からないじゃないですか。

だから、じゃあこう並べたら、みんな同じように見てくれるかとは思わない。結局、不特定多数のお客さんが来る小売店で、特に本の場合は、お客さんの誘導を考えて展開しても仕方ない気がしています。売れるものがそれぞれの興味次第なので。それよりもSNSでの発信ををどう変えるかとか、お客さんに「いいね!」って思ってもらえる+αをどうやって提供するか、そういった部分かなと思っています。

古本屋さんは大概、お店の前に100円均一の本が並んでいるじゃないですか。そこに他の古本屋さんなら100円で売らないようなものをぼんぼんぼんと置いて。それをSNSで「今なら100円でこういう本がありますよ」と紹介するだけでも、他にも掘り出し物があるかなってお客さんが来てくれたりします。集客ってそういう分かりやすいものだと思っています。

もちろん、ホームページやSNSで丁寧に発信していくことで、少しずつお店のコンセプトや店主の考え方に共感してくれるファンを作るというのも大事だと思います。それも必要だけど、一方でまずはお店を覗いてみてもらうための集客も必要かなとも思うわけで、両輪うまくやるのがひとりだと厳しいということはありますが。

彩子

私は作り始めた栞がきっかけで、ツイッターでフォローしてくれる人が増えたり。本関係のイベントに呼んでもらって、その場でお客さんの似顔絵で栞を描いたりしています。そういう場で出会う人が、実は私も旦那が本屋をやっていて、みたいな話してくれることもあるんです。ファンとはまた違うけど、そういう繋がりがちょっとずつできています。他にも、私たちの結婚パーティーを他の本屋さんでやらせてもらって、それが縁でうちのお店にも来てくれたり。おかげさまで、未だに初めてお会いするのに「おめでとう」と言ってくれる人もいます。

今はどうしても、個人のお店は「お店としての発信」と「店主個人の発信」の両方が必要だと感じています。でも僕はその辺やりたくないんですよ(笑)。だけどありがたいことに、妻はそれができるタイプなんです。

普段、お店のSNSのアカウントは、オープン・クローズ と入荷した本の案内ぐらいなんです。ひたすらそれだけ。だけど妻がそこに絡んで宣伝だったり、「こういうことがありますよー」とたまにフォローしてくれています。棲み分けというか、自然と役割がそうなっていました。そういうバランスが、夫婦で上手く取れている気がします。

彩子

キャラクターが出るよね。

そうだね。

彩子

狙ってとかじゃなくてね。