より本格的な本屋を志向するかどうか

いま商売としては、お店の維持はできるぐらいにはなってきたんです。ただ、次の段階に行こうとすると、小手先ではなく大きな変化が必要な状況にブチ当たっています。だから今の規模や業態、システムの変更を検討したり、古本に関しては、価格帯をもう少し上げた品揃えにすべきかとか、いろいろ判断の時期には来ています。

現状は儲かってもいないんですけど、あのくらいの規模と働き方で、これくらい手元にお金が残ればいいよねという目標があります。そこに向けていつも動いているから、あんまりお金の心配はしてないんです。

仕事している感があるというか。

そうですね。会社員として仕事をしていると、自分の役目が全体にどう影響しているのかって見え辛い。自分で商売をするとリスクは大きいですけど、過程も結果も全部見えているので仕事の達成感はありますね。

会社員としての責任と、自分で商売するときの責任とでは質が全く違います。どっちの責任を負う方が気楽かっていう話だと思います。僕は自分で商売する方が向いているんだと思います。

昔から本が好きだったんですか?

そうですね。割と本は読む方でした。ただ僕は漫画が多かったかな。文学はほとんど読んでないんですよ。僕が分からないから、文学の本はお店にほとんど置いてない。

それはある意味で正しい判断ですね。

そうですね。大概はお客さんの方が個々の商品に詳しいんです。個人的に好きな本やお店として力を入れているジャンルはともかく、日々大量の本に触れているので商品知識は浅く広いものになりがちですから、お客さんの「好き」の深さには勝てません。変に自分の知らないものを頑張って置こうとすると、お客さんに見透かされちゃいます。怒られたりもします。分かんないものは分かんないし、お客さんに教えてもらったほうが良い。

彩子さんはどんな本を読むのですか?

彩子

私は彼と逆で、文学好きです。他にもいろいろ読むんですが、随筆も好きですね。エッセイだと軽かったり、現代の人のものが多いんですけど、随筆はもうとっくに亡くなった人の作品が主で、小説とは違って身近なことを書いてあるのが好きです。彼も随筆は好きで、そこの趣味はけっこう合いますね。二人で他の本屋さんに行くと、入り口でパッと解散してサーっと見て15分後ぐらいにお互いの気になる本を確認してから購入します。一緒に見て歩くパターンはないですね。お互いに本を見る順番とかバラバラなので、一緒に見ていると逆に集中できません。

最近は他の本屋さんに行くと、什器のほうが気になってしょうがないです。これどうやって作っているんだろうとか。

面白い本をどう選ぶのか

特に縛りはないです。自分が実際に読んだ本だけを置いているわけではありません。新刊は、日々、良い本が発売されるので、情報を追いかけるだけでも大変です。なるべく本の問屋さんである取次や他の本屋さんで手に取って確かめてから仕入れることにはしています。

本に限らず、自分で楽しみ方を考えるって重要だと思います。みんなが面白いよって言っている本だけを選べば間違いはないけど、本の楽しみ方は読むだけじゃありません。タイトルが気になったとか、表紙がきれいとだとか、きっかけは何でも良いんです。自分で手に取って選んでみるのも本の楽しみ方のひとつです。内容がすごく面白いわけじゃないけど、この本はこの本なりにこういうところが面白いねっていう楽しみ方もできたほうが、幸せなんじゃないかなと思います。

余白と聞いて思い浮かべること

今のところこの商売は、食べられるほどにはなっていないと先ほども言いましたけれど、それでも必ず週に1日は休みにしているんですよ。それは本を読む時間も必要だろうし、身の回りのことをちゃんとやるってすごく重要だなと思っているからです。髪を切るとか、風呂掃除をするとか、そういうことがちゃんとできる時間を確実に設けようと独立した時から思っていました。それがないと、たぶん僕はやっていけないと思います。

彩子

私は彼の余白の視点とは違うんですけど、自分が何をやるかってところの余白は活かしておきたいなと思っています。例えば、私は何者なんですか?と言われたときに色々説明が難しいです。旦那さんが本屋をやっている人も一つだし、本を読むのが好きな人もそうだし、栞を描いている人もそう。一箱古本市に出ているのもあるし、栞がきっかけでイラストの仕事もたまにいただくことがあって、そういう意味ではイラストレーターと名乗っても間違っていない。

肩書じゃないんですけど、自分が何者かを説明する言葉がいくつかあって、それは私は良いことだと思っているし、それでおしまいではない。ここからまだ余白を残しておいて、また何か新しいことするかもしれないし、でも本業もある。今後もし子どもが生まれたら母親になるかもしれないし、その何者かみたいな部分で、余白があると面白いなって思います。

僕も出版社にいた時から、他の仕事もちょこちょこやっていたんです。起業と言うほども大それたものではなく、うちのお店みたいに小さくでもやってみたらいいと思うんです。独立や企業というと、革新的なアイデアで新しい市場を作ります!みたいなイメージが強いじゃないですか。でも、実際にはそんなこと天才にしかできない。仕事を作るってそういうことじゃないとみんな分かれば、自分で商売をはじめようって人も増えるのでしょうけど。

見えている部分以外のところが大きい

今は立地の良いところにすごく綺麗なお店を作って、そこをコンセプトショップにするけど、利益を生むのはそこじゃない商売も多い。そういう意味では、古本屋さんも似ているなと思うんです。

昔からの古本屋さんのイメージって、お店におじさんかおじいちゃんが暇そうに座って店番しているイメージじゃないですか。今でもそういうお店はもちろんあるんですけど、実際にそういう古本屋さんが稼いでる部分ってお店だけじゃないんです。重要なのは仕入部分で、おじいちゃんの息子さんとか若いスタッフが、毎日のように車で買取に走り回っています。そういう仕入れの部分がしっかり出来ているから、おじいちゃんがゆっくり店番できるわけです。まあ実際には、70代、80代でも元気に市場にやってくる方が多いですけどね(笑)。

店頭だけで勝負しようと考えちゃうと無理がある。例えば選択肢としてダブルワークをするのも全然ありだと思うんですよ。食べていく部分は会社員で稼いで、本屋は人生を楽しくするための仕事というのも、それはそれで選択肢としてはありだと思っています。

見た目とギャップのある仕事

そうですね。特に古本屋さんは裏方まで知るとそういうギャップが強いです。昔からの古本屋さんも店頭にお客さんが来ないのは一緒で、ネットでの販売の割合が大きくなっています。

もともとひとりで本屋を始めたときは、最長五年ぐらいの実験的なつもりでした。このお店の広さだと、新刊を扱わない古本屋だとしても、確実に食べていけるほどの広さじゃないんですね。その前提で二年やっていて、わりと思っていたよりも早く組合に入ったおかげもあって、いろいろなものが見えてきました。まだ具体的な計画はは何もないんですけど、そろそろちゃんと食べて行けるように、向こう十年の単位で考えられるお店づくりを考え始めています。