鉄道は本来儲かるものなんですか?

日本の鉄道会社はすごく優秀なんで、日本の人たちは鉄道事業は儲かるものだと思っている。でも、世界的に見ると黒字でやっている鉄道会社なんてほとんどないんです。ヨーロッパで多く導入されているLRTはほぼ例外なく大赤字なんですよ。しかし自治体が街を維持するためのインフラとして、お金を投資して整備しているんです。そこが日本と全然違うところで、日本は明治時代から鉄道を作った経営者がものすごく優秀だったので、お金が儲かる事業になっていてみんな営利事業だと思っている。でも鉄道は本来インフラなんです。たとえば、ここの水道管は3人ぐらいしか使ってないから廃止にしますとか誰もしないわけですよ。鉄道も同じです。

静岡に静岡鉄道というのがあるんですけど、静岡鉄道の収益のなかで鉄道事業の収益は1%なんですよ。売上の大半は自動車販売業の売上です。静岡鉄道はトヨタの静岡県内の総代理店で、自動車販売が売上の7割ぐらい、不動産で2割ぐらいで鉄道事業は一番低い。

1%しか売上が無いのですが、周辺の関連事業で売上を出すことで数分に1本電車を走らせているわけですよ。つまり、静岡鉄道にとって鉄道事業は採算うんぬんの問題ではないんです。だけど経営者が有能だからそうやって鉄道を残すことが出来ているんです。静岡鉄道はもともと鉄道事業を戦前からやっていて、戦後は静岡市内の交通網、路面電車としてあちこちに路線を延ばしていました。それが高度経済成長期になって車が売れだしてどんどんどんどん鉄道がダメになり、そして車を売るようになりました。

逆のパターンもあってトヨタ自動車は本社の前に愛知環状鉄道が走っているんですが、トヨタが鉄道で通勤を推奨していて、愛知環状鉄道はトヨタの通勤に便利な区間でシャトル列車を走らせています。他にも、自動車メーカーでは部品や完成した車を積んで輸送する専用のコンテナ列車があるんです。

関東と関西の鉄道の違いって端的にはどんなところですか?

こういう仕事をしていると毎月東京に行くんですけど、とにかく人が多い。そうなってくると鉄道会社自体に余裕がないんですよ。これだけ多くの人をいかに効率よく運べるかになってくるので、そういう意味では東京の鉄道の車両はどこの鉄道も似てしまうと思うんですよね。外装も何となく同じような感じで、多くの人が乗るってこともありますし、これだけ多くの車両を作っていかなきゃいけないこともある。言ってみれば鉄道車両のメーカーが標準的な車体を用意していて、それを各社が採用するんですよ。そうなってくるとどこの会社の電車に乗っても同じようなイメージになって、色や座席の位置が違うとかその程度になってくるんですね。

関西は良くも悪くもそこまで人がいないんで、ちょっと遊びというか個性を出せます。そういうところが違うところです。

東京自体は人が多くて混雑するんだけど、鉄道会社もそれだけの車両を修理してメンテナンスしていかないといけません。例えば東京の電車は全部銀色じゃないですか。あれはステンレスにすることで塗装の手間を省いたりとか車体のサビの補修とかが不要になるんですね。大阪もステンレスの車両は増えているけど、阪急とか京阪は色が塗ってある。あの車体は錆びにくいアルミで作られていて、本来色は塗らなくていいんですよ。でも色を塗っているというのはそれだけ言ってみれば余裕もあるし、ブランドの個性を全面に出していくってことを関西の鉄道会社は大事にしているんですね。

電車における効率と余白の関係とは?

そうですね。効率を重視せざるを得ないんです。そういう話でいくと、大阪のJRの快速電車は二人がけのクロスシートになっています。あれは混雑している東京では絶対に出来ない部分もあって、クロスシートにすることで座席に座れる人数が増えるんですね。横に長いロングシートと比べて2割ぐらい座れる人が増えるんですけど、その分ラッシュのときに詰め込みが出来ない。立つスペースが少ないということは、ラッシュのときに対応しづらい状況があるので、東京では無理だけれども大阪ではある程度出来る。そればかりかやっぱりお客さん、特に昼間に乗る人はロングシートが来る鉄道会社よりは、二人がけで座れたほうが快適でいいよねって、そっちの鉄道会社に流れるんです。

それも含めて関西は余白もあるし、その上で会社同士が良い意味で張り合っているというのがあると思いますね。

おととし京阪がプレミアムカーを作って、あれが京阪はじめての有料座席列車だったんですが、関西では2つの意味で盛り上がったんです。ひとつはケチな関西人が金を出すのか。これはそのちょっと前から南海が通勤特急を400-500円ぐらいでやっていたんですよね。その乗車率が良かったので関西人でも座れるということに対してお金を出すのがわかったというのはあったんです。京阪はカーブが多いので、大阪~京都間を移動するのに時間が掛かるんですよ。阪急やJRのほうが早い。

そこで、時間がかかるのを逆手にとって、プレミアムな座席でゆっくり行きましょうという付加価値を付けたところ、これがかなり受けたんです。この成功が他の鉄道会社にもかなり刺激になったみたいで、他社が何かやるんじゃないかと話題になっていますが、それも含めて関西の鉄道はまだまだいろいろ余白があるし、例えば大阪ー京都間でもいろんな選択肢があって、それぞれの個性がすごく面白いと思います。

鉄道の未来における面白い動きとは?

鉄道が残るのは間違いないと思うんです。海外の話だと鉄道、特に都市部でいわゆるLRT(路面電車)がどんどん増えている。言ってみれば街を再開発、再々開発して賑わいを復活させるのに鉄道が必要なことは世界各国で証明されていて、中国は一年間に20都市ぐらいの勢いで路面電車が増えています。

日本でもまさに今、宇都宮が路面電車を作ると決めて数年後に開通する予定で工事が進んでいるんですが、いまだに反対運動もあって、十何年間喧々囂々と議論がある。だけれども世界の事例を見ていたら路面電車があることによって様々なメリットがあるんですよね。よく言うのは、車だと家から目的地まですぐ行けるし便利な部分がいろいろあって、その点に関して鉄道は勝てない。だけどその便利を全員が持ち出すと不便が生じてくる。全員が車を使うと道も駐車場も混むし、車で行けるところにしか人は寄らなくなる。ついでの買い物が無くなるんですよね。そういう意味でみんなが使い出すと不便になることがあります。

でも例えば路面電車に乗るためにちょっと歩くことで健康になる部分ってあると思うんですよね。生活のバリエーションを考えたときに鉄道を使うことがトータルで考えて効率がいい。だから僕たちもいろいろと講演で路面電車が街をよくするって話をするんですけど、路面電車が直接良くすることはなかなか見えにくいんですよね。だけどそれを使う人が意識を変えることで、車を使わないことで健康になったり環境に少し優しくなったり、そういうメリットはあると思います。それが余裕になると思います。

僕は京大の大学院で交通政策の勉強をしていた時に、嵐山から四条大宮まで走っている嵐電を祇園まで延伸する話を研究していました。5年くらい前に試算をしてみたんですけど、かなりの効果が見込めたんです。ほかにも京都では環状の路線を作る話とか、LRTを増やす話はけっこうあちこちである。それに対しての反対論が、今これだけ車が走っているのに路面電車を入れたら渋滞するからとんでもないと言うんですけど、そもそも車を減らす前提で話をしているので、今の台数と比べて話をするのがナンセンスなんです。

最近、東西を走るメインストリートの四条通を今まで四車線だったのを二車線にして歩道を拡げたんですね。これもものすごく反対があったけれども市がやるんだと市長のトップダウンで実行した結果たしかに街に賑わいが戻ってきて、路面店の売上も増えたんですね。

一方で車は渋滞するんですけど想像以上の渋滞はなかったです。バスが混むのは現状ではどうしようもなくて、バスのためにバスが渋滞することもある。観光客が増えすぎていることもあり、これは何とかしていかないといけない。実はこの理想形は道路を全部なくしてしまって、路面電車を通すというものなんです。バスをうまく路面電車や地下鉄に誘導していくことで街を歩きやすくする。路面電車に乗ってチラッと見たいい店にちょっと降りて行くとか、何か美味しそうなケーキ屋さんがあるからパッと行くことで街の賑わいを作っていくわけです。車ではその役割は出来ないんですよ。

そういう意味では路面電車は街を水平移動するエレベーターやエスカレーターみたいな感じで、動く歩道の列車版ですよね。パッと降りて買い物へ行けて、またパッと乗る。そういうスタイルが出来たら街はどんどん変わりますし、それがヨーロッパなり中国なりで証明されているんです。

観光地は本当になかなか難しいことはあります。間違いなく今の状況は一過性なんですよ。鎌倉の今のとんでもない混雑が十年二十年続くかというと、そんなことはないんですよね。それに対してどれだけの投資をしていくかってことがあるんですけど、それ以前に地域の人がうまく暮らしていくための施策を考えるのであれば、やっぱり思い切ったことをするべきで、観光客の人はこの車両しか乗れません、これは地元の人しか乗れませんみたいな施策ですね。闇雲に観光客を呼んでしまった結果が今の状況なんで。

インバウンド、インバウンドって大阪なんか特にインバウンド倍増とか言っていますけど、その弊害があっちこっちに出てます。受け皿が出来てから呼ぶのもそれはそれで問題がありますけど、そのバランスがうまくいってないことで、片っぽだけの状態を追い続けている結果が今の状態なんで、そういう意味では観光客を受け入れる側にゆとりがなくなっているんですよね。使い古された言葉で縦割り行政の弊害って言いますけど、まさにそうですよね。