東京に「余白」はある?

それで言うと東京は狭いんじゃないですか。狭いし人が多いから、余白がないように感じます。歩いている人にとっては適切なスペースなのかもしれないんですけど、電動車椅子に乗ってる人間からすると、全くもって不適切です。そういう意味でスペース的な「余白」は無いように感じます。今年オリンピック・パラリンピックを東京でやる数ヶ月前のタイミングですらなかなか無いじゃないですか。

一番端的な例だと、通勤や帰宅もそうですけど、電車のラッシュがすごいじゃないですか。車椅子でラッシュの電車に乗るとものすごく息が出来ない。混雑がひどい時は本当に窒息するんじゃないかと思うくらい息が出来なくなります。そういう意味でももう少し街に余白がないと東京はなかなか住みづらいかも。

通勤ラッシュの電車の中ってスペースを確保するため、暴力に近いような行為をしてくる人間に豹変される方もいたり…。そんな時こっちは電動車椅子なんで、スイッチを入れて抵抗すると結構抗えるんですよ。

平林

僕はこの車椅子の頑丈さだったら、勝負を挑めるとは思えないな。

空門

電車内での彼ら彼女らは果敢に来ますよ。果敢に来るというか、そもそも余裕がなくて車椅子がいるってわかっててもそうせざるを得ないのかも。

東京に異動する前まで住んでいた大阪はどうだった?

空門

まず密度が違うと思いましたね。大阪の方が柄が悪いのは間違いないんですけど(笑)。東京は何か冷たいと感じる時があります。ただ押しのける。ただ割って入る。そういう無機質的な流れ作業のようですよね。

平林

東京では余裕のなさを感じるけど、大阪のあれは余裕がないとはまた違うよね。

空門

違いますよね。言葉にしづらいんですけど。ラッシュはラッシュなんですけどね。大阪は良い意味でおせっかいな方が多いから、「ここに車椅子おるやんけ!」とかあるじゃないですか。車椅子に限らずベビーカーとかお年寄りとか、「ばあさん立ってるのになんで席譲らへんねん!」みたいな。大阪ってそういう感じがある。そういう意味での温度差は感じますね。

特に最初感じたことはそこですね。わりとカルチャーショックで、みんな自分のことでいっぱいいっぱいな感じが、大阪よりも強く感じましたね。

平林

みんなも、地方から来た人たちばっかりだったりするのにね。変わっちゃうのかな?

空門

どうなんでしょうね。

平林

東京生まれ東京育ちってあんまりいないと思うしね。

空門

僕は東京へ来てから少し変わった気がしますね。

平林

どう変わったんですか?

空門

今の自分のポジションがそういうポジションだってこともあるんですけど、東京の方が忙しいです。それこそ隙間の時間がない。

平林

気持ちの余裕もなくなります?

空門

そうですね。多分イライラしたりしてるんじゃないですかね 笑

NHKで番組づくりがやりたかった

東京に来てどのくらいになる?

空門

今で5年目ですね。

大阪ではどんな番組を作ってたの?

空門

大阪では福祉の番組と青少年系の番組を半々ぐらいでやっていました。

NHKって最初はどんどんいろんなことをやるようなイメージだった。

空門

基本的にNHKのディレクターは幅広く番組を作るよりも、専門の分野に落ち着く人がかなり多いですね。

そもそも大学のころからNHKを目指していたん?

空門

そうですね。マスコミ志望だったので、一通り受けました。民放のキー局があって、準キー局があって新聞社と試験が続き、その中でもNHKの志望度は高かったです。それは現実的な判断でした。NHK以外は株式会社じゃないですか。利益が関わってくるから、障害者の雇用に対して当時は厳しい目を当然向けられる感じはあった。

そういう意味でNHKは入れる可能性がまだあるんじゃないかと。それこそ福祉の番組やあまねく人に届ける番組をやっているところで、まさか差別はしないだろうって思ってた。もちろんこちらの勝手な印象ですけど、もしNHKがダメだったらメディアに入るのは結構厳しいと思っていました。

働き始めてみると、意外とバリアフリーではなかったんだよね?

空門

入ってから知りました。そもそも同じような境遇のディレクターがほとんどいないですからね。今もそんなにいないですが…。

ずっと教育ジャンルが多いの?

空門

大阪で最初の約6年は福祉の番組をやっていたんですよ。

それって自分で希望して配属されるものなの?

空門

最初全然希望しているところではなかったけど、とりあえず君はここで頑張ってねという感じでスタートしました。青少年関連の番組を作り始めたのは、大阪の後半ですね。自分が7年目ぐらいに、違うフィールドに挑戦させてくださいと伝えて青少年分野の班に異動しました。

「沼にハマってきいてみた」とVTuberを取材して見えてきたこと

いま青少年系の番組に関わっているなかで、一番伝えたいことってありますか?

空門

今担当している番組を簡単に説明すると、「沼にハマってきいてみた」ってタイトルで、ネット用語の「沼」が由来なんで、「沼」というある種のクラスターの世界を深堀りしていく番組です。

中高生をターゲットにしていて、アニメやゲーム、音楽など何か自分がハマれることや、熱中出来ることに役立つ情報を扱ったり、すでに「沼」にハマっている子たちが見てテンションがアガるようなゲストを呼んだり企画を考えて、一緒に盛り上がりたいなと思って制作しています。

ちなみに最近で印象に残っている取材は?

空門

VTuber(バーチャルYouTuber)※です。あれはなかなかな「沼」で、VTuber自体が画期的なシステムだと思いました。僕自身すごくカルチャーショックだった。VTuberには美少女キャラとかイケメンキャラなどいろいろなバーチャルなキャラクター達がいるんですけど、それを見ていると「ある程度のルックスがないとテレビに出られないバイアス」を、僕ら制作者側が掛けているんじゃないかって感じました。

VTuberは声がすごく素敵だったり、キャラクターがすごく面白くて人気がある。その独特のキャラクターは、テレビタレントとは全く違う文脈のネットカルチャーが育んだある種のエンタメを極めている人たちで、そんな彼らがVtuberという存在として脚光を浴びた事実は非常に面白い。

※VTuberはバーチャルYouTuberの略で、3Dや2Dのバーチャルキャラクターが登場するコンテンツ動画(主にYoutubeなど)を指します。

そもそもYouTuberはどう思ってた?

空門

僕はYouTuberには絶対背伸びしても勝てないと思いました。

それはなぜ?

空門

時期的に言うとテレビのコンプライアンスが厳しく言われて、それが浸透してきたぐらいですよね。YouTuberは彼らの裁量で企画を考え、出演するじゃないですか。全て彼らの世界観と責任の元でやっていて、それこそ昔僕らが見ていた民放のバラエティーとか今じゃ絶対できない体を張っためちゃくちゃな企画をオマージュして、動画を作ったりしているじゃないですか。

彼らはそれができるし、それを見て喜んでいる中学生や高校生がいるのは、同じ中高校生に向けて番組を作っている人間からすると、彼らには絶対に勝てないな…って感覚でした。だからテレビの世界にどうやったらYouTuberが出演してくれるのか考え、何人かのYouTuberと仕事をしました。

YouTuberとVTuberは似ているの?

空門

VTuberはYouTuberとは違う文脈だと思います。匿名で本音を言う文化が日本型に特化していった延長線上に、VTuberはあるのではと思います。それが正しい方向に行っている感じがすごくしました。VTuberはエンターテインメントとして成立しているから、すごくポップじゃないですか。

平林

匿名で本音を語るのは日本独特なの?

空門

世界共通ですが、日本人には「村八分」的な部分があるじゃないですか。学校のスクールカーストや、PTAの中のポジションとか、日本は少し陰湿なところが強いような気がします。