歴史へのリテラシー感度を高めるためには

平林

いまの大河ドラマ「いだてん」も良いんですか?

玉置

僕はすごく面白いですね。

平林

僕にとってはちょっとパッとしない印象なんですよね。勝手な判断なんですけど、素人目には大河ドラマって有名どころの例えば坂本龍馬だったり、独眼竜正宗、武田信玄みたいな時代のメジャーどころをやりつくしちゃったから、マイナーなところをやっているイメージがあったんですよ。もうメジャーどころが残っていないんだろうみたいな。

玉置

もともと幕末から明治は、過去からいっぱい大河にはなっているんですけど、必ず苦戦すると言われていたんですよ。それがちょっと変わったのが「篤姫」のブレイクで、風穴を開けました。ただやっぱり、その後例えば三谷幸喜さんの「新選組」も数字が悪かったし、「八重の桜」は後半延々同志社大学が出てきたり。幕末も好きなジャンルなんだけど、意外に苦戦するんですよね。

やっぱり戦国時代が固い。それで言うと歴史書が最近またすごく売れるようになったんですよね。応仁の乱とか南北朝を話題にした本がすごく売れているんですよ。室町時代みたいなものすごくややこしい時代が、逆にすごく何十万部も売れたりしています。今こそ、太平記をやったらいいと思うんですけどね。

さっきの平成ライダーしかり、こちら側が複雑なものに慣れて来たんですかね。

玉置

いま足利尊氏・直義兄弟の観応の擾乱をやったらすごくウケるかな、どうなんだろうな。本は売れているけど、視聴率を動かすぐらいの数なのかどうか。

幕末は分かりやすいじゃないですか。打倒幕府というテーマが。だから逆にいま複雑系な歴史の話の本が売れているということは、そういった視聴者の思考も変わってきたのかなとか。

平林

ある意味、僕には1600年代より前が全部一緒に見えちゃう。

そういう歴史な話に絡めて思うんですが、日本の高校生までで習う歴史も、だいたい明治ぐらいまでで終わってしまうじゃないですか。それこそ力尽きた感じで(笑)。あれは何なんだと思って。

玉置

良くないなと思うね。

特に今は近現代を学んでから戻る形のほうが、理にかなっている気がするんですよね。

玉置

結局、やっぱり太平洋戦争に対するネガティブな想いがあるから、あまり詳しくそこを教育して来なかったことがあるのかと思ったりします。でも本当はそっちからやったほうがいいよね。日韓関係もやたらとメディアでやっているから分かっている気にはなるけど、ちゃんと教科書で読んでいるわけじゃないんですよ。ちゃんと勉強すればもっと良し悪しも考えられると思うけどね。だから幕末ぐらいから始めればいいと思いますけどね。明治で日清・日露戦争があり、日韓併合、日中戦争があって太平洋戦争があってと。あと戦後GHQの占領、朝鮮戦争という流れをやったほうがいいよね。

平林

極論なんですけど、幕末から後をやっていればいいんじゃないかと思うんだけど。

僕はそれでいいと思います。

玉置

それより前の話は前の話で、面白いからやったらいいんだけど、どっちが重要かというと近現代史なんですよ。

平林

今の生活に関わってくるのは幕末から後の時代ですもんね。

玉置

韓国の教科書が偏っているかどうかは別にして、まず彼らは1919年に建国ということで、そこからの話を徹底的にやるわけですよ。向こうの人たちは少なくとも教育を受けていて、こんな日韓史だったんだと学んでいるわけですよ。日本はそもそも学んでいない人がほとんどだから。

平林

この前、台湾と韓国を区別できていないような人もいたよ。韓国の話をしていたときに、台湾と勘違いしていた。台湾と韓国はもちろん別な国じゃない。でも韓国で起こったことを話していたら、その女の子は台湾のことと混ぜこぜで、頭のなかで両方の国の話が一緒になってた。

玉置

昔オーストラリアに取材に行ったときに、向こうのおじいさんに電車のなかで急に絡まれて、「昔、君の国は我々を爆撃した」とすごく問い詰められたことがあって、実際にそういう事実があったんですよ。数は少ないけどオーストラリアに日本軍が爆撃したことがあるんですよ。

平林

その話は聞いたことがあります。

玉置

そのおじいさんがそれを体験しているかは知らないけど、そのことを知っていて、敵国だみたいな感じで言ってきたので、「あ、なるほど」と思ったことがありますね。日本とオーストラリアの交戦のことも知らない人がほとんどだと思うし。

平林

そこら辺の話は、興味を持って読み進めていくと絶対出てくる話じゃないですか。どこまで掘り下げていくかだけど。

玉置

何となく中国と韓国の話ばかりだけど、当然他の国、インパール作戦だったり、ミャンマーやタイなどいろんな国との関係の話があるし、言うほどネガティブな話ばかりではないというのも、これはこれで問題なんだけど。ネガティブとポジティブの両方を学ぶことが大事だと思うね。

平林

今の国と国の関係のベースは、ここ数十年間のことを考えると、ちょっと前のあの時代のことがあった上での現在なんで、今のこの関係を理解する上で必要だと思うんですよ。

玉置

歴史に対するリテラシーは常に研ぎ澄まさないといけないと思うんですよね。例えば司馬遷の「史記」と言えば、歴史の父みたいな感じがあるじゃないですか。だけど司馬遷自体はやっぱり儒教的な考えに支配されている人なんで、ある一定の価値観があるんですよ。

そのなかで、例えば始皇帝は焚書坑儒で儒家に対して極めてきつかったんで、史記ではすごくネガティブに書かれている。例えば三国志でも曹操がいつも悪者になるじゃないですか。でもどう考えても客観的に見たら曹操のほうが名君なんだよね。

そうそう。そうですよね。

玉置

曹操のほうが劉備や孫堅よりも名君なんですよね。だから曹操がやったことはすごくて、例えば彼は建安文学っていう極めて素晴らしい詩人でもあって、ほとんどオールマイティーの天才なんですよね。日本で言えば信長がもっとカッコよくなってみたいな人で。

でも三国志のなかでは徹底的に悪者で書かれている。それは正史ではなくて三国志演義のほうで、もともとの魏呉蜀とは関係ない話も全部いっぱい引っ張ってきているので、そのなかの悪い話を全部曹操に割り振って、良い話は劉備に割り振ったりしているから、完全に脚色された世界になってるわけです。

平林

そういう見方で思ったのは、韓国の安重根ミュージアムという記念館に行ったんです。安重根は向こうでは英雄ですよね。日本ではテロリストですよね。伊藤博文は悪の象徴、悪魔のような描写をされていて、ここまで違うんだなって思いましたね。

玉置

日本にいると、そのことをあまり知らないというのはあるよね。あと僕もそんなに詳しく調べているわけではないけど、安さん自体が今のメンタリティみたいなアンチ日本というよりは、もうちょっと複雑な人ですよね。例えば皇室に関しては尊敬があったりするし、しかも伊藤博文はむしろ併合することには反対していた人なんですよね。

平林

伊藤博文といえば、韓国の民族服を着ている写真があるんですよ。それを韓国で知っているか聞いて回ったの。みんな見たことがないって言っていて。ハングルでそれを調べてもハングルの情報では出てこないの。

玉置

だから伊藤博文が死ななかったら、併合しなかったかどうかは分からないけれど、植民地化することに対しては当時議論があって、反対の急先鋒は伊藤博文だった。その人を殺しちゃったというのはどうなんだろうね。

平林

向こうを見ていると、そういう都合の悪い事実は消されるんですよね。

玉置

調べれば調べるほど、いろいろ思うことはある話ですね。

平林

向こうは複雑とかいう以前に、ヒーローと悪魔と完全に分かれてますね。

玉置

日本でもいろいろ行われているようなストーリー化の裏返しが、向こうでも行われているんですよね。

だからそのストーリー化を声の大きな人がやってしまうと、余計にややこしくなりますよね。

平林

声の大きな人のほうが声が通ってしまうからね。

玉置

僕が嫌いなのは、とにかく統制が嫌いなんです。価値観は一人ひとりが自由に持っているべきだと思うんで、それを同調圧力でどっちかに持っていくというのはすごく嫌で。

平林

そうですね。その動きはいつでも強いですよね。

玉置

だから言い方はあれかも知れないけど、不買運動は仮に日本でやっても中国でやっても韓国でやっても、どこでやっても嫌なものなんです。

他にも例えば編集していない映像と言っても、それが編集されていたりもするから、なかなか映像も客観的にはやっぱり難しい面がありますよね。

玉置

それが指摘されても、結局直さなかったりするからね。

平林

実際に編集していないこともあるかも知れないけど、その映像を事実だという前提で目の前に置かれても、その事実が自分に都合が悪いと、目を背ける動きはすごくある気がします。そしたら、何を出しても駄目な気もするんですよね。凝り固まっているというか。

玉置

だから、結局白黒付けるような話でもないし、それはやっぱりどっちがどっちを論破して、それで終わる話じゃない。だからどういう解決の方法があるかと言えば、たぶん距離をちょっと置くことが大事なんだと思いますね。

平林

中国との尖閣諸島問題で、以前、鄧小平が取ったやり方ですね。

玉置

結局それしかないんです。何らかの決着を付けようとすると、それこそ一番最悪で分かりやすい結論は、戦争をすることになっちゃうんで。だったらお互いに納得はしないけれども、ある程度のところで、お互い自分の主張は曲げないまま引くのがベターで。相手に合わせるというのも違うと思うんです。

平林

日中関係が以前すごく悪かった時期に、ある国際会議の場で、日本と中国の政府の人たちがたまたま隣同士に居合わせて、僕もそこにいたことがあって。そのときに日本も中国の人たちも挨拶をした後に、お互い話そうとはしないんですね。

下手に会話をして、どこかでスイッチになるキーワードが出ようものなら、やっぱり立場上、言わなきゃならない。そうすると収取がつかなくなるから、誰もスイッチを押さないように、出来るだけ下を向いている、という雰囲気でした。

玉置

少し前にNHKで中国の若者に密着する番組があって、それは面白かったですね。だから中国は、いま本当にああいう形で経済的にも技術的にも、格差はいっぱいあるかも知れないけど、すごく変わってきているじゃないですか。特に若者は当然死ぬほど留学はしているし、自分の外の世界のことをよく知っているんです。しかもやっぱりある意味ちょっと豊かになってきたんで、豊かになると文化水準が上がっていくじゃないですか。

そうするとやっぱりどんどんいろんなものの考え方も深まっていて、すごく面白いんですよね。それをNHKはずっと密着していて、例えば習近平体制のなかで正論をバーっと言っちゃうと、天安門事件があったから立場が無くなることを彼らは知っている。NHKがそこはすごくある意味微妙で、ヤバい立ち回りをしていることを紹介していて、僕はすごく面白かったですね。

だから正義を論じる人は、不満があったら香港みたいに立ち上がれ!みたいな話になるかも知れないけど、その番組を見ていると、今の中国はそういう意味では情報はどんどん入ってきている。ネットの統制は行われていて、もちろん13億のなかでは何も知らない人もものすごく多いとは思うけど、知っている人の数も13億なんで馬鹿に出来ない数の層がいるわけですよ。だから過渡期なんだろうね。それはある意味、中国共産党も習近平も分かっていると思うんですよ。このままでは行かないだろうって。

平林

中国のほうが社会の雰囲気が良いですよ。街中の雰囲気が良いですよ。余裕もあるし殺伐としていない。
中国に関しては話始めるとこれは終わんなくなっちゃいますよ(笑)。それだけネタがあるんですよね。